(2006/02発行) 「季報 唯物論研究」第95号 にて掲載

四次元主義のうねり



 インターネットの検索エンジンで、たまたま、"Relativity and the Dimensionality of the World"(「相対性理論と世界の次元性」)(Vesselin Petkov,2004) という論文を見つけました。(http://www.spacetimesociety.org/VPetkov.html) 私のかねてからの問題意識に共鳴するところが大きいと思い、興味を持ちました。そこでは、「四次元主義」という言葉が登場します。相対性理論が扱う四次元時空(ミンコフスキー時空)の実在性をめぐる議論で、それを実在するものとする立場は「四次元主義(four-dimensionalism)」と呼ばれます。他方、その実在性を認めず、実在するのはあくまで運動する三次元世界なのだとする立場は「三次元主義(three-dimensionalism)」とか「現在主義(presentism)」とかと呼ばれています。これは、この著者独自の用語ではなく、北米の科学哲学では、広く一般に使われている言葉のようです。四次元時空の実在性をめぐる議論は、北米を中心とした科学哲学の分野で、1990年代くらいからホットな議論になっているみたいです。時空の存在論をめぐる国際会議も開催され(2004)、今年は第二回が予定されています。Vesselin Petkovは、その会議の委員会の中心メンバーの一人のようです。
 彼は、"RELATIVITY AND THE NATURE OF SPACETIME"(「相対性理論と時空的自然界」)(2004) という著書を出しています。物理学的にも専門性の高い内容の著書だと思われます。その目次の大項目を紹介すると、
となっており、第一部は相対性理論で四次元時空が扱われるようになった経緯を解説し、第二部で、哲学的議論を展開、第三部では、一般相対性理論に焦点を当てて、非慣性座標系についての議論を展開しています。Webサイトに掲載されていた論文の内容は、第二部の第5章に相当しています。

 「四次元主義」については、日本では「時間論の構築」(勁草書房)の中山康雄(大阪大学大学院・人間科学部)が注目しているみたいですが、他はどうなのかよくわかりません。科学哲学の分野では、日本でも時間論は近年盛んなようなのですが、現象学的なアプローチや、時制論理等の分析哲学的アプローチが多いように思われます。時空の存在論についてはどうなのでしょうか。

 私は、「四次元主義」という言葉自体は、Webサイトがパワフルに検索できるようになった最近まで、知りませんでした。ただ、私は私なりに、この「四次元主義」か「三次元主義」かという問題提起を(「主義」という言葉は使わなかったけれど)行い、当・季報にも二回小論を掲載しております。(第48号(1994)(http://www.infonia.ne.jp/~l-cosmos/relativity/TimeRelativity/TimeRelativity01.html)、第51/52合併号(1995)(http://www.infonia.ne.jp/~l-cosmos/relativity/TimeRelativity/TimeRelativity02.html))そして、Petkovと同様、「四次元主義」の立場を表明してきました。私の着眼点は、「同時刻の相対性」です。
 ただ、Vesselin Petkovの四次元時空の実在性に関する議論を読むと、同時刻の相対性では、「相対化された現在主義(三次元主義)」の余地が残ってしまうのだが、「双子のパラドックス」に言及すれば、四次元主義はゆるぎないものになるという展開がされています。私は、これについては異論があります。同時刻の相対性だけで、充分だと思うし、その方がシンプルで、強力な論理になると考えています。ただ、同時刻の相対性だけで論じようとすると、二人の観測者の座標系の原点を離して考えなくてはなりません。Vesselin Petkovの議論では、二人の観測者の座標系の原点が重なっています。これは、相対性理論の教科書によく出てくる典型的な時空図ですが、哲学的に鋭く議論を展開しようと思ったら、二者の原点は離さなくてはならないと思うのです。
(なお、「双子のパラドックス」の問題については、それはそれで、私は、別途論じた論文をWebに掲載してます。(http://www.infonia.ne.jp/~l-cosmos/relativity/twins/TwinParadox.html)これは、論争形式のスタイルで書いてみました。)

 四次元時空のアイデアそのものは、アインシュタインの理論を受けたミンコフスキーによるものです。それの実在性を強く意識した議論をヘルマン・ワイルなどが行なっており、ここ、百年くらいのテーマになっています。

 以下に掲載する小論は、時空の存在論・国際会議が行なっている要約論文の募集(http://www.spacetimesociety.org/conferences/2006/callforpapers.html)に私が応募して提出したもの(の和訳)です。  (英文は、こちら


時空の実在性を考察するにあたっての別提案