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Abstract
This paper analyzes the ongoing structural transformation of the global order in what may be described as the fourth phase of the postwar era, focusing on the role of information technology and generative artificial intelligence. Drawing on a periodization of post–World War II history, the study situates recent developments in AI within longer-term political, economic, and social changes.
Rather than treating generative AI as a standalone technological breakthrough, the paper argues that it functions as a structural condition shaping patterns of perception, judgment, and decision-making across political, military, and everyday domains. By examining the relationship between information technology and financialization during the third postwar phase, the analysis highlights key continuities leading to the present.
Special attention is given to emerging capability gaps produced by the externalization of judgment to algorithmic systems. Although often obscured by the apparent accessibility of digital technologies, these gaps have significant implications for labor, democratic participation, and the reproduction of everyday life. The paper concludes by arguing that the structural transformations of the fourth postwar phase should be understood not only as shifts in the international order, but also as changes in the conditions under which human judgment, social relations, and everyday practices are organized within an increasingly information‑mediated society.
第1章 序論――構造変動と情報化をめぐる視座
第二次世界大戦の終結から現在に至る世界の動向を、大きな構造変動として捉える試みは、これまでも繰り返し議論されてきた。本誌特集趣旨(田畑稔氏ほか)では、戦後世界を四つの時期に区分し、冷戦の成立と終焉、ポスト冷戦期の展開、そして現在進行中の国際秩序の動揺を、それぞれが固有の性格をもつ歴史的段階として整理している。本稿も基本的にはこの提起を受けつつ、議論を進めるものである。
ただし、この四期区分を理解するにあたって、近年の急速な技術革新、とりわけ社会の認知や意思決定の基盤にまで影響を及ぼしつつある情報技術、なかでも生成AIの登場をどのように位置づけるかは必ずしも自明ではない。情報化は冷戦初期から国家安全保障や産業の基礎として存在してきたが、社会の深層を揺り動かすほどの影響力をもつようになったのは、ごく最近のことである。この変化は、国際政治や経済の動向とは別の次元で、しかも密接に関係しながら進行している。
今日、世界各地で見られる政治的分断や民主主義の停滞、排外主義の台頭、武力衝突の常態化といった現象を、従来の地政学的枠組みだけで理解しようとすると、どこか説明の射程が足りなくなる。国際秩序の不安定化は重要な現実であるが、その背後で、情報の生成・流通・消費の仕組みがどのように変質し、主体がそこにどのように組み込まれているのかを捉えることが、現代の状況を理解するうえで不可欠になりつつある。
生成AIは、単に新しい技術として現れたのではなく、社会がどのように認知し、判断し、行動するのかという基盤的な領域に作用している。この技術は、政治的意思決定、軍事行動、経済活動、生活世界のあり方に、直接的かつ間接的なかたちで影響を及ぼしている。すなわち生成AIは、「第4期に登場した技術」というより、「第4期という時代の性格を構成する条件の一つ」として理解されるべきであろう。
本稿では、こうした構造変動を、情報化の進展を通じて社会の判断の前提そのものが変質していく過程として捉える。第一に戦後世界の四期区分を参照しつつ、その内部で情報技術がどのように発展し、社会変化とどのように関わってきたのかを整理する(第2章)。第二に、生成AIの基礎技術と実用化を可能にした条件を概説する(第3章)。第三に、情報技術が政治・軍事、生活世界、民主主義の基盤に及ぼしている影響を検討し、第4期の構造変動の深層を考察する(第4章・第5章)。最後に、これらを踏まえ、現在の課題と展望を示す(第6章)。
第2章 戦後世界の時代区分
――特集趣旨の提起と情報技術史・金融化からの補助線
本稿で生成AIと情報化社会の問題を論じるためには、第二次世界大戦後の世界がどのような段階を経て現在に至っているのかを整理しておく必要がある。本章では、本誌特集趣旨で提示された戦後史四期区分を踏まえつつ、情報技術の発展史と、第3期に顕在化した金融化とバブルの問題を補助線として加える。
第一期は、第二次世界大戦の終結から朝鮮戦争休戦までの時期である。この段階では、戦後秩序の枠組み自体が流動的であり、暗号解読や弾道計算、初期コンピュータ開発など、情報技術の萌芽は主として軍事研究の文脈で進められていた。しかし、これらは巨大で高価な設備を必要とし、社会全体に普及する段階には至っていなかった。
第二期は、冷戦構造が固定化した時代である。核抑止体制のもとで、情報処理技術は軍事・行政・科学技術の判断の制度的基盤として定着した。七〇年代後半から八〇年代にかけてのダウンサイジングは、情報技術を研究機関や国家装置の内部から一般ユーザーへと開き、のちのネットワーク社会への準備を整えた。
第三期は、ポスト冷戦期である。インターネットの普及とデジタル化の進展により、情報技術は社会の隅々まで浸透したが、同時に金融の肥大化と情報技術の結合が進行した。電子取引や数理モデルは取引を高速化する一方で、経済的判断を実体経済から切り離し、投機的取引を増幅させた。ITバブルや金融バブルは、この構造の帰結として理解できる。
第四期は現在進行中の時代である。深層学習と巨大な計算資源、ネットワーク基盤の成熟によって、生成AIは社会の基盤的インフラとして組み込まれつつある。本稿は、第3期から第4期への移行を、情報技術と金融化が準備した構造変化として捉える立場をとる。
第3章 生成AIの基礎技術と実用化条件
――深層学習・情報インフラ・判断の外部化
生成AIは、人間のような意味理解や意識、意図を備えた知性ではない。その中核にあるのは、大量のテキスト、画像、音声等のデータから要素間の関係性を数値的に抽出し、ある入力に対してどの出力が生起しやすいかを確率的に推定する深層学習モデルである。 そこでは、人間のような理解や判断が行われているというよりも、意味理解を前提としない確率的推定と、統計的規則性の再配置が行われていると捉える方が適切であろう。ただし、学習規模の拡大とモデル構造の高度化によって、外見上は推論や判断に近い振る舞いが観察される場合がある点には留意が必要である。
文章生成の場合、語や文は「埋め込み(embedding)」として多次元空間上の数値ベクトルに変換され、語と語の意味的な近さは距離や方向として表現される。生成AIは、こうした埋め込み表現をもとに文脈全体を参照しながら、次に現れやすい語の確率分布を計算し、それを反復的に出力していく。この過程は、人間の思考や推論を模倣しているように見えることがあるが、実際には意味の理解や意図の形成を伴うものではない。それにもかかわらず、生成される文章が整合的で説得力をもつのは、既存の言語使用の膨大な蓄積が、埋め込み空間における統計的規則性として高度に圧縮・再現されているためである。
この点は、生成AIの有効性の源泉であると同時に、その限界や危うさの根拠ともなっている。生成AIは新たな知識や価値を自律的に創出しているわけではなく、過去に生産された情報や言説を、別の形で再配置しているにすぎない。そのため、誤情報や偏り、支配的な価値観が、批判的検討を経ることなく再生産される可能性も構造的に内包されている。いわゆる「幻覚(ハルシネーション)」の問題は、単なる技術的未熟さに還元できるものではない。確率的生成という仕組みそのものが、学習分布の外挿や検証されていない出力を生み出す可能性を内包しているためである。 この点でハルシネーションは、改良によって低減されうる一方で、完全に排除することが構造的に困難な現象として理解されるべきであろう。
深層学習の特徴は、明示的なルールを人間が与えるのではなく、大量のデータから規則性そのものを抽出する点にある。教師あり学習や自己教師あり学習を通じて、モデルは「正解」を理解するのではなく、「このような入力の後には、このような出力が生じやすい」という対応関係を蓄積していく。この蓄積が一定の規模と密度に達したとき、外見上は理解や推論に近い振る舞いが観察されるようになる。第三期における記号処理型AIが実用化に至らなかったのに対し、深層学習が社会的影響力をもつに至った理由は、ここにある。
もっとも、こうしたアルゴリズム上の進歩だけで、今日見られる生成AIの急速な普及を説明することはできない。決定的だったのは、計算資源と情報インフラの側で進行してきた長期的な蓄積である。GPUを用いた並列計算、巨大データセンターの建設、クラウド基盤の普及、超高速ネットワークの整備、オープンソースソフトウェアと研究コミュニティの成熟などが相互に連動することで、かつては研究室レベルにとどまっていたモデルが、日常的なサービスとして常時稼働することが可能になった。
この点で生成AIは、単一の発明やアルゴリズムの成果として理解されるべきものではない。資本、労働、エネルギー、データ、知識が、ある歴史的条件のもとで集中的に投入された結果として成立している社会的生産物である。その運用と管理には巨大資本と国家的戦略が深く関与しており、誰が計算資源とデータを支配するのかという問題は、技術論の域を超えて政治経済的な争点として浮上している。
さらに重要なのは、生成AIが判断や意思決定の一部を外部化する装置として機能している点である。文章の要約、選択肢の提示、評価の補助といった機能は、人間の認知的負荷を軽減する一方で、判断のプロセスそのものをシステムに委ねる度合いを高める。この「判断の外部化」は、利便性の向上として歓迎されやすいが、どこまでをシステムに委ね、どこからを人間が引き受けるのかという境界は、必ずしも自明ではない。
ここで注目すべきなのは、生成AIが「誰でも使える」かたちで提供されている点である。同じ技術を利用していても、その出力をどのように評価し、修正し、文脈に位置づけるかによって、結果の質は大きく異なる。この差は、操作の巧拙というより、技術の前提や限界をどの程度理解しているかに依存している。生成AIは能力を平準化する装置として期待されることが多いが、実際には、判断能力の差を見えにくいかたちで拡大させる可能性を併せ持っている。
この構図は、第3期における金融市場と情報技術の関係とも通じる。金融の分野では、数理モデルと高速情報処理が判断を専門化・集中化し、その影響が広範な生活世界に波及した。多くの人々は仕組みを十分に理解できないまま、結果を引き受けることになった。生成AIをめぐる現在の状況も、判断が高度に外部化され、その過程が不可視化される点で、同様の構造を内包していると言えるだろう。
生成AIの問題は「機械が賢くなった」ことに還元されるものではなく、情報処理の高度な自動化が社会の基盤に組み込まれることで、第4期における構造変動が政治・軍事・生活世界のみならず判断の水準にまで及んでいることを示している。
第4章 政治・軍事の変質
――認知、意思決定、戦争のかたち
前章で見たように、生成AIを含む情報技術の発展は、単なる道具の高度化ではなく、社会の認知や判断のプロセスそのものを媒介する情報環境の形成を意味している。この変化は、政治や軍事といった権力作用の中枢にもすでに深く浸透しており、現在進行中のグローバル世界の構造変動を理解するうえで、重要な前提条件となっている。
政治の領域において顕著なのは、情報環境の変化が公共的討議の前提を大きく変えてしまった点である。SNSとアルゴリズムによって媒介された情報空間では、発言の可視性や拡散力が、内容の妥当性や熟議の過程よりも、感情的反応や即時的関心に左右されやすい。このような情報環境のもとでは、政治的言説は、熟議や合意形成のためのものというよりも、支持者を動員し、敵対者を可視化するための刺激として機能しやすくなる。これは個々の政治主体の資質に還元できる問題ではなく、利用者の反応(閲覧、共有、コメントなど)を指標として、情報の表示や拡散を自動的に調整するプラットフォーム設計そのものが、感情的反応を選好しやすく拡散を促していく構造をもっていることと深く関係している。
加えて、情報の選別や強調、再構成がアルゴリズムによって自動化され、その過程がブラックボックス化されるとき、政治的判断は、誰がどのような根拠で形成しているのかが見えにくいかたちで積み重ねられていく。生成AIは、この傾向を加速させる装置として作用していると言えるだろう。大量の情報を瞬時に要約・生成・拡散できる技術は、政治的メッセージの生産と消費の速度を飛躍的に高め、熟考や批判的検討のための時間を圧迫している。
こうした情報環境は、排外主義的言説や単純化された物語が広がりやすい条件を整える。複雑な社会問題や国際関係は短いフレーズへと圧縮され、「自国第一」や「敵の可視化」といった言葉が、アルゴリズムによって選好されやすくなる。そこでは、構造的要因や歴史的背景への問いよりも、感情的同一化と敵意の喚起が優先される傾向が強まる。
軍事の領域においても、情報技術の影響はより直接的なかたちで現れている。監視技術、無人兵器、AIによる標的選定、情報戦・認知戦は、すでに現代戦の重要な構成要素となっている。ここで注目すべきなのは、武器の性能向上それ自体よりも、戦争における意思決定の様式が変質しつつある点である。
情報処理と判断の一部がアルゴリズムに委ねられるようになると、個々の判断がどのような論理でエスカレーションへとつながっているのかが見えにくくなる。無人兵器や自動化された防衛システムは人的損失を減らすという名目で導入されるが、そのことが結果として武力行使への心理的・政治的ハードルを下げている可能性も否定できない。実際の軍事運用においては、人間による指揮統制や交戦規定が依然として介在しているものの、多層的な意思決定と自動化された処理の組み合わせは、結果として責任の所在を分散させ、判断のトレースを困難にする傾向をもたらしている。
生成AIを含む情報技術は、「力こそ正義」という論理を直接生み出しているわけではない。しかし、その論理が作動しやすい条件を整えていることは確かである。政治・軍事の変質は、技術の問題であると同時に、社会が意思決定をどのように媒介してきたかという構造の問題として理解される必要がある。
ここで見た政治・軍事の変質は、情報化された判断の様式が、構造変動の一環として権力作用の中枢に組み込まれていることを示している。
第5章 生活世界・労働・民主主義の変容
――分業ヒエラルキーの再編と能力格差から見た情報化の深層
第4章で検討したように、政治や軍事の領域では、情報環境の質的変容が判断の様式そのものを組み替えつつあり、意思決定の基盤がアルゴリズム的処理へと部分的に移行している。この変化は、権力作用の中枢に限定されるものではなく、生活世界や労働のあり方、さらには民主主義を支える主体形成の条件にまで深く浸透している。とりわけ情報技術の高度化は、日常的な認知の様式や判断の前提、そして社会の再生産を支える条件そのものを静かに変質させている。本章では、こうした変化を、分業ヒエラルキーの再編と能力格差の拡大という視座から捉え直し、第3期における金融化の経験と重ね合わせながら検討する。
1 情報化と判断の外部化――分業体系の構造的変容
今日の生活世界において、個人の判断や行動は、本人の意図を超えてアルゴリズムによって選別・誘導される場面が増えている。情報の取得、商品の選択、余暇の過ごし方、人間関係の形成に至るまで、多くの行為は、過去の行動データをもとに最適化された選択肢として提示される。このとき主体は、自ら選んでいるという感覚を保持しているが、その判断の前提条件はすでに外部の情報環境によって編成されている可能性がある。この二重性は、主体の自律性の基盤に微妙な変化をもたらしている。
こうした判断の外部化は、分業体系の内部でどの能力が上位に位置づけられるかを静かに再編している。定型的な処理や反復作業はアルゴリズムに委ねられやすく、逆に、複数の情報源を統合し、文脈を読み取り、判断基準そのものを構築する能力は、分業ヒエラルキーの上位へと押し上げられていく。情報化は、単に作業の効率化をもたらすのではなく、判断の構造そのものを階層化し、分業体系の再編を促す力として作用している。
2 労働の断片化と上位能力の選別――情報化がもたらす新たな階層化
労働の領域では、情報化とアルゴリズム管理の進展が、効率化と柔軟性をもたらす一方で、仕事の断片化と不安定化を進めている。プラットフォーム労働やギグワークに象徴されるように、労働は細分化され、評価は数値化され、競争は常態化する。ここでは、労働の意味や共同性よりも、アルゴリズムが設定した指標への適応が行動を規定する力として前景化している。 この構造のもとで優位に立つのは、単なる操作技能ではなく、断片化された作業を統合し、状況を読み替え、判断の基準を自ら構築できる能力である。生成AIが下位の作業や定型的処理を代替するほど、こうした上位の判断・統合能力を持つ主体と、システムに依存せざるをえない主体とのあいだで、見えにくい格差が拡大していく。情報化は、労働の内部における階層化を強化し、分業ヒエラルキーの上位と下位の差異を新たな形で再生産している。
3 能力格差の不可視化と判断の階層化――「誰でも使える」技術の裏側で
こうした環境のもとで浮上するのが、情報化の進展に伴う能力格差の問題である。この格差は、従来の学歴や専門性、あるいは知識量や操作技能の差とは必ずしも一致しない。高度な情報技術が「誰でも使える」かたちで提供されることで、表面的には格差が縮小したように見えるからである。
しかし実際には、生成AIの出力をどの程度信頼し、どこで疑い、どのように文脈化・修正するかという判断能力の差が、分業体系の内部で静かに階層化を進めている。情報技術が何を行い、何を行っていないのかを理解し、その限界や偏りを前提に判断できる主体は、分業ヒエラルキーの上位に位置づけられる。一方で、判断を外部システムに委ねざるをえない主体は、下位の作業に固定化されやすい。この意味で、能力格差は不可視化されたまま再編成され、静かに、しかし確実に拡大しつつある。
4 金融化の経験が示す構造――専門化と責任の集中の再来
第3期における金融化とバブルの経験は、この構図を理解するうえで示唆的である。金融市場では、情報技術と専門知識を掌握する一部の主体が判断を行い、その結果が広範な生活世界に影響を及ぼした。多くの人々は、金融商品の仕組みやリスクを十分に理解できないまま、雇用の不安定化や社会保障の圧迫といったかたちで帰結を引き受けることになった。
ここで形成されていたのは、判断と責任が高度に専門化・集中化され、その影響だけが社会全体に波及する構造である。生成AIをめぐる現在の状況は、この構図を別の領域で反復している。高度な情報処理が社会の基盤に組み込まれるとき、誰がどのような基準で判断を行い、どこに責任があるのかが見えにくくなる。これは、能力格差を単なる個人差ではなく、社会構造の問題として捉える必要性を浮かび上がらせる。
5 民主主義の基盤と判断の再配分――主体形成の条件の変容
能力格差の問題は、民主主義の基盤とも密接に関わっている。民主主義は、判断し、語り、他者と関わる主体の形成に支えられている。しかし、情報環境が高度化し、判断の前提がブラックボックス化されると、公共的領域への参加は形式的なものになりやすい。政治的選択が複雑な情報処理を前提とするようになるほど、その過程に主体的に関与できる層と、結果を受け取るだけの層との分断が進行する危険がある。
とはいえ、生活世界が一方的に情報技術によって規定されるわけではない。地域社会、労働現場、アソシエーション、コモンズ(デジタル・コモンズ、リアルな地域社会の共有空間ともに含んで)の実践を通じて、人々が技術を批判的に使い返し、連帯や協働を再構築する試みも存在している。重要なのは、情報技術を拒否することではなく、その作用を理解したうえで、判断と責任をどのように再配分するかという問いを共有することである。
6 小括――生活世界の深層で進む構造変動
以上のように、生活世界における情報化の影響は、利便性や効率性の問題に還元できない。能力格差、金融化の経験、判断の不可視化、そして分業ヒエラルキーの再編といった要素が重なり合うことで、社会の再生産の条件そのものが変容している。第4期の構造変動とは、国家間の力学の変化にとどまらず、こうした生活世界の深層で進行する変質を含んだ複合的過程として理解されるべきである。第6章 結論――第4期構造変動の中で
――情報化・能力格差・共同性の再構築に向けて
本稿は、生成AIを中心とする情報技術の進展を戦後世界の四期区分の中に位置づけ、第4期における構造変動との関係から検討してきた。そこから、情報化が政治・軍事・経済・生活世界における判断の前提条件を変容させ、政治や軍事の領域で進行する構造変動が、生活世界の判断の条件にまで及んでいることが浮かび上がった。
第4期は、覇権国家の交代や国際秩序の再編といった表層的な変化にとどまらず、社会が依拠してきた基盤そのものが揺らいでいる時代である。政治は熟議の場としてよりも動員と分断の装置として機能しやすくなり、軍事は自動化と遠隔化によって武力行使の敷居が下げられ、生活世界では主体の形成条件が静かに書き換えられている。これらは互いに無関係な現象ではなく、情報環境の質的変容を媒介として連動している構造的変化として理解されるべきであろう。
本稿が繰り返し強調してきたように、情報技術は歴史の方向性を一方的に決定する外在的な力ではない。技術は常に社会的文脈に埋め込まれ、資本、権力、制度、文化と結びつきながら、その意味と作用を変えていく。第3期における金融化と情報技術の結合が、実体経済から乖離した判断を増幅し、その影響を生活世界に波及させた経験は、そのことを端的に示している。生成AIをめぐる現在の状況もまた、判断の外部化と不可視化が進むという点で、この延長線上に位置づけることができる。
とりわけ重要なのは、情報化の進展が能力格差を新たなかたちで再編している点である。この格差は、単なる知識量や技能の差ではなく、判断の前提をどこまで理解し、どこまでを外部のシステムに委ねているかという差として現れる。生成AIは「誰でも使える」技術として普及しつつあるが、その出力をどのように評価し、文脈に位置づけ、修正するかによって、得られる結果は大きく異なる。ここでは、能力格差が不可視化されたまま拡大していく危険が存在している。
この問題は、民主主義の基盤とも深く関わっている。民主主義は、形式的な制度だけでなく、判断し、語り、他者と関係を結ぶ主体の形成に支えられている。しかし、政治的・社会的判断の前提が高度に情報化され、その過程がブラックボックス化されるとき、公共的領域への参加は形式的なものになりやすい。判断に関与できる層と、結果を受け取るだけの層との分断は、民主主義の実質を静かに侵食していく。
とはいえ、こうした変化を不可避的な没落や破局としてのみ捉える必要はない。情報化は支配と統制の装置であると同時に、連帯や協働のための条件ともなりうる。地域社会、労働現場、アソシエーション、コモンズといった生活世界の具体的な場において、人々が技術を批判的に使い返し、判断と責任を再配分しようとする実践は、すでに各所で試みられている。重要なのは、技術を拒否することではなく、その作用を理解したうえで、どのような社会的枠組みの中に位置づけるかを問い続けることである。
より広い視野から見れば、情報化社会の進展は、人類が長い時間をかけて進めてきた「認識や判断の外部化」の一局面として捉えることもできる。言語、記録、制度、機械といった外部装置を通じて、人間は知識や労働を蓄積し、再生産してきた。しかし現在の局面では、その速度と規模が社会の自己調整能力を超えつつあり、外部化された情報環境との関係そのものを再設計する必要に迫られていると言えるだろう。
大戦後第4期の構造変動の只中にある私たちに求められているのは、楽観や悲観に回収されることなく、現状を構造的に理解したうえで、最悪の帰結を回避し、よりましな選択肢を制度的・実践的に積み重ねていく姿勢である。本稿で見てきたように、第4期における構造変動とは、国際秩序の再編にとどまらず、情報化社会の進展を通じて、人々の認知や判断、つながりのあり方そのものが組み替えられていく過程でもある。情報化と生成AIは、その過程において避けて通ることのできない条件であり続けるだろう。 さらに言えば、表層的な動向に流されることなく、人間のあり方や他者とのつながりを根本から問い直していく姿勢そのものが、こうした構造変動の時代においてあらためて求められている。本稿の議論が、大戦後第4期という構造変動の時代において、情報化社会を生きる私たち自身のあり方を問い返すための一助となれば幸いである。
英語題:Structural Transformations in the Fourth Postwar Phase and the Information Society